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『空の青さを知る人よ』感想と考察

 『空の青さを知る人よ』の感想とモチーフの考察です。
 予告編( https://www.youtube.com/watch?v=xhBQyCoE-dg )見て面白そうだなって楽しみにしてた作品。

 しんのの声がかなりいいんだよなぁ。吉沢亮さん。惚れてしまいそうや。

 予告編では思わなかったけど、本編見たらあかねの声も良かった。吉岡里帆さん。きれいな声ですが、女優さんなんですね。でも違和感なかったな。

 ぼくは高校時代にバンドやりたかったけど挫折したクチなので、バンドモチーフというだけで評価がかなり上がってしまう。主人公がベース女子ってとこも渋くてイイ。割とおっさんキラーだよなあ。

 例によってネタバレ交えながら演出とかモチーフを考察しつつ、感想を吐き出しておきたいと思います。ネタバレは嫌な人は自己責任で。

全体に漂う和テイスト

 主人公のあおいが着ているパーカーに大仏らしきキャラクターが描かれていたり、いつも練習する場所が神社だったりで全体的に和テイストが漂う本作。長井龍雪監督、岡田麿里シリーズ構成での過去作品『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』でも阿頼耶識システムっていう仏教っぽいモチーフが出てきてますし、この作品も裏モチーフには「仏教」があるように思います。

 そんな中、主人公のパーカーには先に書いたとおり、仏が描かれている。あおいは仏陀、お釈迦様なんですね。大胆だな!

 仏陀についてぼくは手塚治虫の『ブッダ』を読んだぐらいしか知識がないんですが、ちょこっと調べるとこういう逸話( https://bukkyouwakaru.com/dic/s11.html )が出てきたりする。

ある日、シッダルタ太子は父・浄飯王(じょうぼんおう)に手をついて、「城を出てまことの幸福を求めさせてください」と頼まれました。

驚いた浄飯王は、「いったい何が不足でそんなことを言うのか。おまえの望みは何でもかなえてやろう」と言われると、太子は、

「それではお父さん、申しましょう。私の願いは3つです」

「3つの願いとは何か」

と不審そうに浄飯王が聞かれるとシッダルタ太子はこう言われています。


「私の願いの1つは、いつまでも今の若さで年老いないことです。
望みの2つは、いつも達者で病気で苦しむことのないことです。
3つ目の願いは、死なない身になることです」

 「年老いず、病に苦しまず、死なない体に」

 これ、神社に閉じ込められた“しんの”の境遇ですよ。閉じ込められたしんのを神社から出した(出家させた)人物が、覚醒者であり悟りを開いた人でありお釈迦様ってことですね。

 なのでしんのが現れた流れは、ご都合主義な感じもするけど、バックボーンはありそうだなとか思いました。

ガンダーラ

 劇中であおいが歌う曲、『ガンダーラ』はゴダイゴの楽曲で、ドラマ『西遊記』のエンディングテーマでした。単に作品テーマと歌詞が一致しているというだけでなく、西遊記も意識されているんじゃないかなあ。

 西遊記三蔵法師が弟子たちを連れて天竺に旅をする物語です。あかねがとにかく三蔵法師っぽい。そうすると弟子たちは高校時代のバンドメンバーか? って気もするんですが、ベースとボーカルの影が薄すぎる感じもする。

 結果、現代メンバーがしっくり来る感じが……。あかねが玄奘三蔵、しんのが孫悟空、慎之介が沙悟浄、みちんこが猪八戒といった感じでしょうか。弟子たちは三蔵に心酔していますが、当の三蔵は仏陀に夢中。そんな図式でした。

 ガンダーラの演奏は現代メロコア風?アレンジで、かっこよかったっすね。

ギターとベース

 登場人物が使ってたギターも調べてみました。あんまり知らないやつだった。

 高校時代のしんのはギブソン ファイヤーバード。赤い髪に真っ赤なギター。情熱的なキャライメージにあってますね。

 大人になった慎之介が使っていたのは、ギブソン ES-335。セミアコギだそうです。シンメトリーな安定感のあるデザインで、演歌歌手のバックバンドにふさわしいチョイス。

 あおいが使ってたのはエピフォンのサンダーバード。エピフォンはギブソン傘下のギターブランドで、主にギブソンの廉価版モデルを製造しています。サンダーバードはその名のごとくファイヤーバードの兄弟モデル。ファイヤーバードを弾いていたのはしんのでしたが、しんのはこのギターに“あかねスペシャル”と命名していますし、“茜色”のギターはまんまあかねを表している。この作品では兄弟モデルならぬ、姉妹モデルですな。

 ぼくはギブソンと言えばレスポール……と思ってしまうけど、赤いファイヤーバードと青いサンダーバードが対になって置かれているのは、あかねとあおいが並んでいる比喩になっていて、カッコイイ演出でした。

タイトル『空の青さを知る人よ』と相生あおい

 秩父という盆地を「井(戸)」に喩え、そこから外に出たことがないしんの、あおい、あかねらを「蛙」に見立てて

 井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」

 とやるわけですね。これ名言っぽくていかにもTwitterでバズりそうなフレーズですが、前半部分の元ネタは莊子、後半部分は近世日本での創作の模様( https://togetter.com/li/358115 )。そういうの個人的にはあまり好きじゃないです……ちゃんと引用してほしい……。

 ともあれ。

 東京に行っても忘れてない慎之介、連絡は取り合わないけど新譜はチェックしてバッチリ買ってるあかね。

 井戸(秩父)から出て大海に揉まれたしんのは海の厳しさを知り、妙に俗っぽい大人になってしまいましたけど、井戸の中で空を見続けたあかねは澄んだ空の青さを知り、また同じく井戸の中から空を見続けたあおいは人生の岐路である夕暮れ時になって、はじめてその茜色に気付く……。

 ここ数年で急によくみるようになった慣用句ですけど、物語独自文脈での解釈が付加されててじんわり良かったですね。

 余談ですが、『あいおい あおい』を「井」から出す(「い」を抜く)と、『あお あお』となって、「なにこれ、めっちゃ青ーい!」となるなあ。などと思いました。(種崎敦美さん繋がり)

まとめ

 作品テーマ的になにがどうなってても好きな作品。冒頭のベース練習シーンで既に結構やられました。

 ひとつだけ気になったのは、終盤のカタルシスがもう少し欲しかったなーってところ。バンドモチーフなんだし、やっぱ最後に1回演奏シーンが欲しかったぜー。あおいの実力もイマイチはっきりしないし、2019年にバンドで天下取りますっつってベーシストが単身上京しても、なんもできないでしょ……。

 そこだけ除けばドラマの筋立てはしっかりしてるし、キャラも魅力的で楽しかったです。同級生、いいやつでしたね。

 これを書いてたらもう1回ぐらい観に行ってもいいかな? という気になってきた。来週あたりまた行こうかなー。未見の方には、ぜひ観て欲しいですね。おすすめです。ではまた。