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リズと青い鳥の感想と考察

前フリ

リズと青い鳥、もう何度も映画館に観に行ってしまって、大好きな作品なので思ったことをメモしておこうと思います。基本観ている前提で書くので、ネタバレ嫌な人は読まないでください。
この映画の面白いところって、場面場面での情報量がすごく多いことだと思っていて。セリフや状況描写以外のところでも色々メッセージが込められている。例えば一番最初のアバン、タイトルコールの前のオープニングのシーン。
絵本の世界でのシーンが終わって、画面左からみぞれが登場、階段の前で軽くターンして目パチ、階段に座る。その後一人の女生徒が登校してくるが、みぞれは無反応。でBGMにピアノの音が入り、ようやく画面左から希美が入場、正面向いてたみぞれが校門側にグッと視界を向け、目を潤ませる。そして挨拶を交わすこともなく、希美の後ろをみぞれが付いていく、という形で校舎に向かう。

ここまでのシーンで、

  • みぞれは希美に尋常ならざる執着をしている。足音で希美と他の人の区別がつくほど
  • 二人は挨拶もしないぐらい「当たり前」な関係
  • 希美はみぞれを一瞥すらしないが、みぞれはほとんど希美だけを見ている

みたいなことが読み取れる。
これをセリフだとか過去回想でやろうとすると、結構な尺が必要だと思うんだけど、それだけの情報量をここに詰め込んで、演出で伝える、っていうのは中々にすごい技術だなーと思うわけです。

そういう視点で見ていくと、あれこれってもしかして…?みたいなことがよくあって、それが面白い。まー書き出していくときりがないので、何かに絞って書いてみようと。なので、このエントリでは二人の位置関係について書いてみようと思う。位置関係と言っても、抽象的な意味の位置関係ではなく、具体的な、構図の話です。

本題

さっきのアバンが終わって、タイトルコールに入る。希美が「ちょっと合わせてみっぺ」的なことを言って。ピッチのズレた第三楽章の、最初のとこを。
で、タイトルどーん、「リズと青い鳥」、と出てくる。

この時の絵がなかなか象徴的で。PVとかにも含まれるシーンなんで、覚えてない人は観てみたらいいと思うけど、二人とも背中向きで顔が見えない。で、左にみぞれ、右に希美という構図。タイトルの文字がね、左にリズ、その下にみぞれ。右に青い鳥、その下に希美となっている。あれ、この関係はもしかして…?となりまして。
ちょっと巻き戻してアバンに戻ると、最初に二人が並んで階段を登ってくるシーンも左がみぞれ、右が希美になっている。
廊下を歩くときは、基本左から右に進む。で、前が希美で後ろはみぞれなんで、やっぱり左からみぞれ、希美の順になる。例外もちょっとあるんですけど。でも右から左に行くときは、斜めの構図になったりとかして。

でもこれ、PVで観ると、最後の下校のシーンだけは、左に希美、右がみぞれに変わっている。物語の中で、希美とみぞれの関係性が変わっていくのに合わせて、画面内での位置関係が変わっている、ということなんですね。左側にはリズ役の人。右側には青い鳥役の人が配置されるようになっている。

例外

例外的に、逆転しているシーンもいくつかあって。
一つ目はタイトル前のとこ、音楽室に着き、絵本を開いて一緒に読むシーン。そこは正面からの構図で、左右の位置関係が逆になる。みぞれが右側から、スー…ッと近づいて来る。みぞれの髪が、希美に触れるかな…みたいなところで「ちょっと合わせてみよっか」なんつって、さっと希美が立ち上がっちゃう。
二つ目は低音パートの教室で、1年生が「大好きのハグ」をしているのを見て、「やったことないの?じゃあやる?」みたいに希美が誘うシーン。で、「なんてねー、嫌だった?」とか言って希美が切り上げちゃう。
いずれもみぞれが肩透かしを食らう展開で。これってつまり、みぞれが希美に触れていたら、その時点でリズと青い鳥の関係性が入れ替わってしまっていた、ということを示唆しているのではないか。で、それがなされないまま終わるので、元の位置関係に戻ってしまう。
特に二つ目のシーンは右から左に歩いてきた二人が、一連のやり取りの後、そのまま右に引き返して行く、という少し描写的には矛盾する流れになっていて、意図が何もないとしたら作画ミスと取られてもおかしくない流れ。何らかの意図があると取るのが自然ではないかと思います。

この視点で見ていくと、リズと青い鳥が入れ替わったのは、どのシーンだったか?というのがはっきりすることになる。

反転

初視聴時は、みぞれが新山先生と話すシーンかと思ったんだけど。自分をリズに重ねようとして、オーボエのソロを上手く吹けないみぞれが、自分を青い鳥に重ねることで、曲のテーマを理解し、覚醒する、というような場面。
でも画面内での位置関係が入れ替わっているのは、そこではなくて。それよりももっと前。
夕暮れの廊下で、音大のパンフレットを見た希美が、「私、この大学受けようかな」と口走るところ。
希美のセリフは決して本心からのものではない。みぞれだけが新山先生に呼ばれ、音大進学を勧められた。どうしてみぞれだけ、どうして自分じゃないんだ。そういう思いがポロリとこぼれてしまった。それがこのセリフ。
期待していたみぞれの反応は、きっといつも通りの、「えっ…じゃあ、希美が受けるなら、私も…」というような、自信なさげなもの。そしたら「なーんちゃって」で終わらせるつもりだった。でもみぞれの反応は予想と違って。それで、気づいてしまう。ああ、みぞれは本当は、この学校に行きたいんだ…。

これ以降、希美はリズとして描かれる。画面の左側に配置され続ける。

この反転のトリガーがなにか、というのがね、人によって意見の別れるところだと思うんだけど。ぼくは「みぞれの本心に、希美が気付いた」ことじゃないかと思う。
気付いたから、リズを演じようとする。でもそんなに簡単に割り切れるものでもなくて、ところどころ独占欲だとか、嫉妬とか、羨望みたいな気持ちがまじる。それがまた切ない。
「あぁ、神様、どうして私に、カゴの開け方を教えたのですか」というのは、そういうセリフ。

希美が童話のリズを引き継ぐ形で、そのセリフをしゃべる、藤棚のシーン。希美は左側に配置されるが、右側には大きくスペースがあるのに誰もいない。希美を囲む藤棚は、鳥かごを、誰もいない右側のスペースは、飛び去ってしまった青い鳥を表している。

このシーンの後は、みぞれのオーボエソロがあって、化学室での大好きのハグのシーンがあって、あとはエピローグ、みたいな流れ。みぞれが覚醒し、青い鳥は飛び立っていってしまう…。
化学室でのシーンも、希美が左、みぞれが右という後半の配置は変わらずだし、やっぱり希美がリズでみぞれが青い鳥だったという演出かなあ。

自分が最初に観た時に一番グッときたのは、希美の回想シーンが入ったあとの大きな深呼吸。
もうなんか、「なんじゃこりゃ…」みたいな感じ。どれだけの感情のこもった吐息なんだ、という。でもみんな経験があるんじゃないか。色々な思いがあって、辛いこと、苦しかったこと、嬉しかったこと、色々あるけど、上を向いて、全部飲み込んで。
それから、勢いつけて、吐き出して。よし、ひとつやりきりました、と。明日からまた頑張りましょう、みたいな。

でもこれ、見返してみたら、対になった演出なんだよね。冒頭の、校門で希美を待つみぞれが、同じように深呼吸をしている。意味的には、そこから二人の「リズと青い鳥」が始まって。この希美の深呼吸で終わり、ってことなんじゃないかしら。

エピローグ

リズが希美で、青い鳥がみぞれでした、という、童話をなぞる形での二人の物語はここで終わり。
でも人生は終わりじゃないから。それからまた、別の人生が続いて行くわけです。

廊下を歩き、左に曲がって図書館に向かう希美。右に曲って音楽室に向かうみぞれ。でも座り位置は二人とも右側で。その奥を、す──っと、青い鳥が、右から左に飛び去って行く。

校門でみぞれを待つ希美。先にみぞれが校門を出て、後に希美が続く。希美を追い越して、みぞれが右に。でも階段を降りるシーンでは、希美が右で、みぞれが左。二人の位置は目まぐるしく入れ替わる。その様子を見ていると、頭に浮かぶのは、あの二匹の白い鳥が、抜きつ抜かれつで大空を飛んでいくシーン。

二人で歩くシーンはアバンのところでもあるけれど、その足音のBPMに言及しているインタビューがあって。希美が140程度、みぞれが80程度なんだそうで。胸を張って、顎を上げて、堂々と前を歩く。虚勢を張り、ヒーローを演じ続けた希美。背中を丸め、影に隠れ、決して追い抜かないように、おずおずと希美のポニーテールを見上げ続けたみぞれ。その二人の関係性が、足音のテンポに現れている。

それが、第三楽章のソロの掛け合いを経て、化学室での大好きのハグを経て、エピローグではお互いにほぼ100程度に変わっているんだそう。ぶつかり合い、混ざり合い、初めて対応の関係になった。希美の肩の力が抜け、みぞれがしっかり自分の足で立てるようになった。その結果、ようやく2人は、本当の意味で、友達になれた。

希美は言う。
「物語はハッピーエンドがいいよ」
劇中何度も口走るこのセリフは、実は原作にないセリフで。その希美が考えるハッピーエンドは、『飛び去った青い鳥が、またリズに会いに来る』未来。これを話すシーンでは、すでに希美は自分がリズであることを自覚している。だから青い鳥は、もちろんみぞれのことで。飛び去ってしまったみぞれは、また希美に会いに来ればいいのにね。そしたらハッピーエンドだ、と、そう言っている。
でもそれは、とても簡単なことで。だって二人は、もう友達だから。いつでも会いに来れるから。
そういうメッセージが、込められている気がする。

終わりに

童話の中での、楽曲の中での役割は、希美がリズで、みぞれが青い鳥だけど、物語の中ではそうではない。その手掛かりは他にもたくさんあって。
例えば青い鳥には名前がなかったりとか、リズと青い鳥一人二役であったりとか。
そんな感じでまだまだ書きたいことはたくさんあるんだけど、全然まとまらないから今回はここまでにします。なんかうまくまとまったらまた書く。